運動の効用は数多い。よく知られていることに健康に良いということがあるが、これは周知の事なのでこの記事では取り上げない。今回取り上げたいことは、運動が頭を良くするということである。近年の研究で明らかになってきている。僕はこのことを、高校生の頃に体感していたが、当時それを示す本もなく立証ができなかった。近年読んだ複数の著名な学者の本に、運動が脳の機能を高めることが、最新の研究として書かれていた。運動の効用についての認識を広めるために、それらについて記載する。
1.プラトンの言葉
はじめに、古代ギリシャの哲学者プラトンの言葉を紹介する。
《参考文献(プラトンの言葉)
人生において成功するために、神は人にふたつの手段を与えた。教育と運動である。しかし、前者によって魂を鍛え、後者によって体を鍛えよということでない。その両方で、魂と体の両方を鍛えよ、というのが神の教えだ。このふたつの手段によって、人は完璧な存在となる。
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2.最新の研究から分かってきていること
近年の研究で運動が脳を良くすることが分かってきている。本から得た情報を概要レベルで紹介する。
2.1.書籍その1(脳を鍛えるには運動しかない)
「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方(著者 ジョン J. レイティ)」という本を電子書籍で読んだ。著者は医学博士で、ハーバード大学医学部臨床精神医学准教授である。精神科医でもある。
その本には、高校生の頃、僕が感じていた体感(運動は頭によい)に対する答えが書かれていた。「やっぱり、そうなのね」と思った。そのメカニズムは高校生の頃は不明であったが、その本には最新研究から得た知見が記載されていた。
著者のレイティは「 運動の第一の目的は、脳を育ててよい状態保つことにある」と断言している。
本の概略
詳細は興味ある人が、本を読んで頂ければよいと思う。この本は日本における運動の認識を変えるものであり、一読に値すると僕は思う。ここでは要点のみ記載する。
①ネーパーヴィル・セントラル高校の実績
第一章でシカゴのネーパーヴィル・セントラル高校での取り組みと実績から話が始まる。この高校で1時目限の前(0時限目)に体育の授業を取り入れたところ、学生の成績が明らかに上昇したというのだ。つまり、学習の前に運動をすると学習効率が上がることが分かった。このメカニズムを最新の脳科学で説明する形で話が展開されていく。僕は高校生の頃(1990年頃)に、朝練、昼練という形で、全く同じことをしていた。運動すると授業中に頭が冴えることも体感していた。しかしメカニズムはよく分からなかった。その答えがこの本に書かれていた。
また、このことは脳を使う仕事の効率にも当てはまる。アメリカでは既に、生産性向上を目的として、会社に運動施設がある企業もある。
②運動の効果について、脳科学の最新の研究による説明
運動の効果について、抜粋では下記のようなことが述べられている。ポイントは大人になった後も、脳細胞は死滅もするが、新生もするということ。運動が脳細胞に影響を与え、神経細胞の成長や結びつきに良い影響を与えていること。運動することで、単に血行がよくなり新鮮な酸素を脳に運ぶというだけでなく、脳細胞にまで影響を与えている点が、新しい研究成果と思う。この研究分野(運動と脳)は始まったばかりで、今後更に研究が進むと本の著者は述べている。
《参考文献抜粋(運動の効果)
運動することで、気持ちがよく なり、 頭がすっきりし、注意力が高まり、やる気が出てくる。つぎに、新しい情報を記録する細胞レベルでの基盤としてニューロンどうしの結びつきを準備 し、促進 する。そして三つ目に海馬の幹細胞から新しいニューロンが成長するのを促す。
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2.2.書籍その2(一流の頭脳)
その2は、その1と重複する内容も多いため、簡略的に紹介する。
「一流の頭脳(著者 アンダース・ハンセン)」という本を電子書籍で読んだ。著者はスウェーデンの精神科医。ノーベル生理学・医学 賞を選定する機関「カロリンスカ 研究所」のリサーチャーでもあり、多くの研究論文にも精通している。
本の中で、脳そのものが物理的に変えられること。脳細胞は生涯新生すること。運動が脳に及ぼす効果が、多くの最新の研究を引用しながら述べられていた。
特に印象に残った文章を抜粋し紹介する。
《参考文献抜粋(一流の頭脳)
・脳の機能を高めるには戦略的に運動をするほうが、パズルや脳トレよりはるに効果があることを、研究成果がはっきりと証明している。驚いたことに、脳は頭を働かせようとするより、身体を動かすことでこそ威力を発揮する器官らしいのだ。本書では、運動が脳におよぼす絶大な効果を紹介し、その理由についても説明する。
・私はノーベル生理学・医学 賞を選定する機関「カロリンスカ 研究所」でリサーチャーとして活動し、幸いにも脳研究の最前線身を置くことができた。本書では科学的根拠なき話はできるだけ書かない。
--ここまで参考文献>
3.僕の体験談 文武両道を実戦した高校生活
僕が高校生の時、プラトンの言葉は知らなかったが、今振り返るとプラトンの言葉通りの文部両道生活を送っていたので、実体験として紹介する。この生活の中で、運動が頭に良い影響を与えていることに、なんとなく気づいてはいたが、それを示す本は当時なく、「たぶんそうではないか」という位であった。
ただ、実経験から得た体感では、文武は両道でなく、互いに良い影響を与え合う相関関係があると思われる。プラトンの言葉通りだ。
両道というと、対になったものや背反のものを両方こなすイメージだが、実はそうではなく、文と武は互いに絡み合い、よい相関があるように思われる。つまり両方をやったほうが、効率的でよい効果が得られるのである。これは、最新の研究でも明らかになっている。世の中的にも、徐々に広まりつつある。そのうち、常識になると思う。
3.1.母校の四條畷高校の紹介
僕の母校を紹介する。とても良い学校であり、僕にとっては理想的な学校だった。この学校で過ごせたことは、本当に幸運なことであったと思う。
大阪府では住む地域(学区)ごとに、受験できる公立高校が決められていた。この学校は僕が住んでいた地域の公立高校では、一番の進学校で偏差値は70位あった。つまり、地域で一番勉強ができる人達が集まってくる学校である。この学校で上位の成績なら、京大をはじめ一流大学でも十分に狙える位置につける。
一方で部活動も盛んで勉強以外の課外活動にも力を入れていた。男女共学で可愛い女の子もいる。学校の雰囲気も和気あいあいとしていて、進学校にありそうなピリピリ感もない。みなそれぞれが、高校生活を楽しみながら、自主的に好きで勉強していた。
《参考文献(ネット検索の抜粋)
四條畷高校は、大阪府四條畷市にある公立の有名進学校で、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)にも認定されています。「質実剛健」「文武両道」をモットーとし、校風は「自主、自律、自由」です。
--ここまで参考文献≫
3.1.1.学校の授業
この学校の授業の特徴は、授業時間が短く授業のスピードが速いことである。生徒に部活動をする時間を十分に与えるために、授業を早めの時間(15時頃)に終わらせてくれるのだ。進学校であり授業のレベルは高く勉強量も多い。それを短い時間に集中して終わらせる。授業のスピードは相当速くなる。
勉強は短時間で集中して終わらせて、放課後は部活をやって充実した高校生活を送って下さいということなのだ。メリハリがある。勉強も部活もやりたい人には有難い。僕が理想と思う教育環境が、ここに実在していた。
ここは進学校であるが、単に難関大学の合格者数を増やしたいだけの学校ではない。課外活動にも力を入れていて、充実した高校生活を提供し、人財を育てている。それでいて大学進学でも地域トップの結果を出し続けている。本当に良い学校と思う。
3.1.2 学校の部活動
この学校は部活動が盛んで、各運動部や演劇部や吹奏楽部など、様々な分野の部活動があった。多くの生徒が部活動に参加し、高校生活を楽しんでいた。一方で部活動はやらずに勉強に専念する人もいた。僕は運動部のバレーボール部に所属した。
各運動部は、公立高校にしては強いほうで、練習も厳しかった。僕が所属するバレー部は、1部~4部(1部のほうが強い。JリーグのJ1、J2のようなもの)まである大阪府の高校の中で1部の下のほうの位置にいた。時々2部に降格したり1部に昇格したりした。そこそこレベルは高く練習もきつかった。昭和の体育会系である。
放課後の練習時間は2時間ほどあったが、それでも他の強豪校と比べるとかなり少ない。補うために、朝練(授業前)や昼錬(昼休み)もしていた。
3.2. 近所の学習塾
僕は学校以外に、家の近所にある学習塾に通っていた。夜は主にここで勉強した。たまたま親の薦めで入っただけの近所の塾であったが、非常に高いレベルの授業を提供していた。灘高や東大寺学園など、全国トップレベルの生徒たちが、わざわざ遠くから授業を受けにきていた。すごい数学の先生(塾長)がいたのだ。大阪では有数の進学校である四條畷高校より、更に数段レベルが高かった。おかげで、進学校の四條畷高校の授業が、そんなに難しいと感じることもなかった。畷高の授業はスピードは感じていたが、難しさはそれほど感じていなかった。塾のほうがレベルが高かったのだ。
3.3.高校生活のタイムスケジュール
僕の高校生活のタイムスケジュールはこんな感じだ。一見ハードにも見えるが、苦労した思いは全くない。楽しく充実した幸せな日々であった。勉強も運動も好きでやっていた。強制的なものは何もない。僕が勝手に自主的にやっていたことだ。
《高校生活1日のタイムスケジュール(出典:高校時代のノートから)
6:00 起床
6:30 自宅を出発。電車通学。
7:30 学校に到着(登校)
7:30~8:30 部活朝練(自主練習)
8:35~11:45頃 学校の午前授業
12:30~13:15 部活昼練(自主練習)
13:20~15:10 学校の午後授業
15:30~17:30 部活(合同練習)
19:00頃 帰宅1回目
19:30~21:00頃 学習塾(授業)
21:30頃 帰宅2回目
22:00~23:00頃 学校の宿題。時間があれば少し予習。
23:30~24:00頃 就寝
――ここまで≫
この生活のポイントを述べておく。まず1つ目は、授業の前に必ず運動を挟んでいること。「朝練→午前授業」、「昼練→午後授業」、「合同練習→塾の授業」と三度サイクルしている。僕は授業中、頭が冴えわたっていた。なんとなく運動が影響している感じがあった。何らかの事情で朝練昼練が出来なかった日は、なんとなく頭が鈍っている感じもあった。これは最新研究で紹介したネーパーヴィル・セントラル高校(こちらは1サイクルだが)と同様の試みと思う。
2つ目は、自宅で復習する時間がないことである。学校も塾も授業中に全てを完了させる必要があった(詳細は僕の高校時代の勉強方法 全集中勉強法)。学校も塾も授業のレベルは高い。本気になって集中する必要があった。一方で部活のほうは、朝練昼練は自主練習なので気楽に出来るが、合同練習は怖い先輩達と一緒に練習する。監督も見ている。手抜きなど出来る状況ではない。合同練習は本気になって運動に集中する必要があった。つまり、勉強も運動も1日中、本気モードで集中する必要があった。本気で集中すると、結果的に「今を生きる」ことになる。僕は1日中、今を生きていた。それは真に充実した日々であり、幸せな日々であった。
3つ目は、実に文部両道ということである。勉強と運動の両立を高いレベルで実現している。運動は1日3時間半位、ハードな練習をしていた。勉強では学校の試験の成績で、だいたい70番代(全同学年男女700人中。上位から約1割の位置)をキープし、男子バレー部の同学年7名の中では1位をキープしていた。ちなみに畷高男子バレー部同学年の7名は、朝練昼練も一緒にやっていたが、みんな一流大学に進学した。国立医大1名、地方国立大1名、慶応1名、早稲田1名(僕)、関関同立(関東でいうMARCH)3名という感じだ。この年代は氷河期世代のど真ん中で、大学入試の倍率は史上最も高かった年代でもある。
この生活は、プラトンの「その両方で、魂と体の両方を鍛えよ」そのものと思う。プラトンの言葉通り、最も人(人の完成形。完璧な存在)に近づけた日々であったと思う。
3.4 体験から得た教訓
体験から得た教訓をまとめたい。
机上の本の知識だけでは信憑性に疑念があるかもしれないが、僕の高校時代の実体験からも、以下の結論は自信を持って主張したい。
①運動すると頭が良くなる。
②学習や仕事の前に運動すると、脳の準備が整い、学習や仕事の効率が上がる。
③プラトンの言葉は真実であり、人生で成功したいなら教育と運動である。
教育も運動も私たちには、多くの機会が提供されている。
運動はウォーキングやジョギングなら多くの人に可能と思う。多くの脳科学者もウォーキングとジョギングは、脳に良いと推奨している。日本にはハイキングに適した山や、ウォーキング・ジョギング・サイクリングの出来る河川敷や、体操の出来る市民公園など、生活圏の多くに運動環境が整備されている。
教育は、書籍でもスタディアプリでもオンライン授業でも放送大学でも、多くの機会が提供されている。放送大学はBS放送で毎日放送されている。僕も面白そうな放送大学の授業(1コマ45分)を録画して利用することもある(単位にはならないが、学生以外でも受信可)。勉強する機会は幾らでもある。
今、日本人は勉強しなくなったと感じている。特に大人が勉強しなくなったと思う。江戸時代の庶民の識字率の高さに、来日した多くの外国人が驚いたという。外国人にとって教養は、貴族など社会的身分の高い人がするものであり、寺子屋などで一般庶民が教養を磨くなどあり得ないことであった。日本国民の教養の高さが、西洋列強による植民地化を防ぎ、西洋列強に対等できた大きな要因の1つと思う。
教養こそ、資源のない日本を世界と対等させるものであり、立派な国にするものであると思う。
また、日本人は健康志向もあるので、太った外国人より、運動を生活に取り込みやすいと思う。
人生で成功したいなら、教育と運動である。
プラトンの言葉通りである。
以上。